「嘘をついた男」 エマニュエル・カレール著 田中千春訳 河出書房新社
草思社刊「平気でうそをつくひとたち」という嘘つきの心理を説いた本があったが、この本はそれを一歩進めて、嘘の上塗りで殺人鬼と化した男の物語。
ジャンクロード・ロマンは1993年1月、妻と二人の子どもを殺した後、実家に行って普通に食事の後、両親を撃ち殺してしまう。何がここまで彼を駆り立てたのか、拘留中から裁判にかけて、著者エマニュエルがロマンとの文通によって、聞き出したことをまとめた。
ジャンクロードは嘘をつかぬ厳格な躾を受けた。リヨン大医学部に入学し、進級試験に失敗し、2年生のまま12年間も医学生として在籍。親には卒業の後、WHO世界保健機構の研究員として勤務しているように装う。同級生フロランスと結婚、二人の子どもまでもうけ、豊かな生活を送る。不思議なのは誰も一度も、彼の仕事を確認しないし、職場に電話一本よこさなかったことである。金は蓄えられた親の金を湯水のごとく使ったに過ぎないのだが。その上児童心理カウンセラー、コリンヌまで愛人とし、彼女の金も投資信託にと嘘を言い、あらかた使ってしまう。
しかし、人の金は使い放題、嘘のつき放題もいずれは破綻する。この話は1993年のロマン事件を題材にした実話である。
「精神分析医シルヴィア」 サラ・ラヴェット著 相原真理子訳 扶桑社文庫
この本の主役はタイトルの通り、すらりとしたスタイルに豊かな胸をしたシルヴィア(34)と、彼女にあこがれる受刑者ルーカス・ワトソン(24)との、悲恋物語と思っては大間違い。
舞台はニューメキシコ州刑務所。1980年暴動が起こり、33人の囚人が他の囚人によって殺された。その時ジャッカル又はエル・チャカルと呼ばれる囚人が暗躍し、死んだ囚人から体の部分を密かに収集したようなのである。それから月日が経ち、二度目の暴動でルーカスは殺され、再びジャッカルが活動を開始する。
いろんな人物が、後から後から出て来ては殺されていく、過度なバイオレンスに眉をひそめられる読者もいると思うが、本当の悪人は誰なのか最後まで気の抜けない面白い小説だった。
第二のパトリシア・コーンウェルといわれるサラ・ラヴェットと、彼女が売り出したシルヴィア・ストレンジを主人公とするシリーズが、2作目、3作目も扶桑社より順次刊行されるようで、今から待たれる。