(またまた厚物で申し訳ないが、最後まで読まれると、憎悪を超えたただ単なるハードボイルドに終わらない哀しみを感じられることだろう)
「変わらぬ哀しみは」ジョージ・p・ペレケーノス著 横山啓明訳 ハヤカワ文庫
時代は1959年春、アメリカはこの頃から少しずつ人種差別の偏見から脱却しようとしていた。場所はワシントンDCの近く、黒人の住居が徐々に白人を押しやっていた町。
デレク・ストレンジ(12)は、白人の友人とブライウット界隈を遊び場所としていた。悪友とちょっとした勢いで万引きをし捕まってしまう。しかし警備員は言う「お前にはあんな人間になって欲しくないな」何かがデレクの心に熱く残る。それから10年、1968年になってデレクは黒人警官となる。「白人からは罵られ、黒人からは裏切り者と蔑まれながら」
町にはベトナム帰りのドミニク、ガソリンスタンドのバズ、ヤク中のショーティ・ヘスという白人の悪(仮にAグループ)。それにアルヴイン・ジョーンズとケニスそして足に障害を持ったデレクの兄デニスを引き込んだ黒人のグループBが居た。彼らは普段は肉体労働によって、低賃金を得、足りなくなったら商店を襲って小使いを稼ぐことを繰り返していた。
何かが起こりそうな危機をはらんだ毎日。この辺を担当するのは、第6管区署のフランク・ヴォーン刑事。妻オルガとの間にリッキー(12)がいて、さらにリンダという10年来付き合っている愛人もいるというちょい悪刑事である。
Aグループは大酒飲んで黒人をからかっているうちに、車で轢き殺してしまう。車の破損を秘密裏に修理しようとするが、ヴォーンが犯行を突き止める。Bグループはユダヤ人の食料品店に押し入ろうとデニスに下見に行かせる。デニスは黒人店員に計画をもらし、ケニスが事前に逮捕される。疑問を持ったアルヴインはデニスに報復を加え殺す。ヴォーンはデレクに言った「ふたりで決着をつけてやろうじゃないか」さあこれからというときに、町はルーサーキングの暗殺により、暴動が2日間に渡って続く。
400ページを越す頃から、すさまじいばかりのハードな展開であるが、最後には何かほっとするような結末を迎える。解説にあるようにまさに「彼らと一緒に呼吸している」という感じを味わえる秀作だ。
(ここでお疲れの読書のために、ちょっと風変わりな短篇集を紹介)
「ナツメグの味」 ジョン・コリア著 垂野創一郎ほか訳 河出書房新社刊
<ナツメグの味>鉱物研究所に新顔のやせて陰湿な男リードが入ってきた。私とローガンは何とか彼の心を開かせ、彼が秘密を自ら話すとうので彼の家に行く。そこで飲み物が出された。シェリーのような酒にたっぷりとナツメグが入っていた。
これだけでは何のことか分からないが、読まれてしばらく考えると、ぞっとしてくる怖さを感じられるだろう。
<魔女の金>貧しい町にやって来た、おかしな画家らしい男が持っていた莫大な小切手による俄か成金者の末路を暗示する作品など。読者をぐいぐい引きつける短篇集。
著者はロンドン生まれで、1980年に没している。是非一読をお薦めする。