(先月からずっと新潮社刊であるが、面白い2冊なのでお許しいただきたい)
「殺人にうってつけの日」ブライアン・フリーマントル著 二宮馨訳 新潮文庫
ペンシルヴェニアのホワイトディア刑務所に15年服役中のジャック・メイソンは、仮出所直前であった。彼の罪状はCIA諜報員ながら、ロシアへのスパイ活動。それを証言したのは、ロシア人元KGBのドミトリィ・ソーベリー。彼はダニエル・スレイターと名を変え、かつてのジャックの妻アンとともに、アメリカCIAの証人保護により平和に暮していた。
ジャックには、何が何でも出所しなければならない理由があった。ひとつにはドミトリィとアンに復讐を遂げるため、もうひとつは一緒に服役中の元銀行員がくすねた300万ドルを奪うために。首尾よくジャックの仮出所はかなえられ、肉感的保護観察官グリニス・ニーダムの手の内で活動を開始する。
ジャックは、CIAで習得したハッカー「トロイの木馬」を使ってすべてのメールを読み取ることが出来る抜群の技術がある。さらに資金として、アルツハイマーの母の遺産も奪った。必要ならアダム・ピーターソンという偽名も取得した。ダニエルの住所はメリーランド州フレデリックと分かっているんだ。NYで銃も買った。「いよいよ活動開始の時が来た」
これから本の中ほどから、じりじりと迫るジャックとおびえ、いらだつアンとの描写が面白い。しかしジャックは二人の最愛の息子、バスケットの特待生として将来が決まっていたディビットに狙いをつけた。彼らを一番苦しめるために。ジャックは練習帰りのディビットを盗んだ車で、自転車ごと轢く。何度も何度も・・・・。
かようにこの本は毒性が強い。読み終えられたら直ちに捨て去られるようお薦めしたい。
「最後の陪審員」上・下巻 ジョン・グリシャム著 白石朗訳 新潮文庫
ミシシッピ州フォード郡の地方新聞社「タイムズ紙」を買い取った若い社主、ウィリー・トレイナー(23)が主人公でこの本の語り手である。1970年ころに起こった「ローダ・カッセロウ殺人事件」が、彼の生き方、新聞(週刊)の行き方を変えた。
若くして夫を失い、28歳で未亡人となった美貌のローダは、貞淑に二人の子供を育てていた。しかし3年経って外出するようになり、そこで顔見知りになったダニー・バジット(24)に、自分の家で、しかも子どもの前でレイプされ殺された。彼女は死ぬ前に言った「犯人はダニー・バジットだ」と。バジット一家は、ミシシッピ州のビッグブラウン川の三角地帯に独自の小部落を作り、最初は密造酒で後に麻薬によって一財産を得たマフィアの一団であった。ダニーは逮捕され、裁判にかけられることになった。このころから陪審員に黒人が許され始めた。その一人がクラントンにすむ、黒人女性カリア・ラフィン。
これからお得意のリーガルサスペンスが展開する。悪徳弁護士ルシアン・ウィルバンクス、リード・ルーパス判事、それに陪審員のメンバー。有罪の評決は出たのだが、町の人たちは量刑の評決が気に入らない。これは黒人女のせいだと。そして「クラントンの人々にもっと重要な論争の火種が降って湧いたからである」と、さらなる進展を匂わせて上巻が終る。
下巻では、緩やかな平和がフォード郡に甦るのだが、9年後ダニーが仮釈放され再び緊張が走る。そして陪審員だったレニー・ファーガスンが射殺された。