(137回芥川賞受賞)
「アサッテの人」 諏訪哲史著 文藝春秋9月号
 1歳半の孫が突然言った「うんばんじ」が半年かかって「アンパンマン」のことだと分かった。それとも違う。芸能人が繰り返す「そんなの関係ない、オッパッピ」とも違う。叔父が突然発した不可解な「ポンパ」の作用「このような避けようのない衝動は、小説的現実と机上的現実の双方にまたがって発生する」そうだ。
 さらに多くの不可解な言葉が発され、著者も「意味のない言葉について真剣に考える、これは果たして意味がある行為だろうか?」と述べている。
 随分この本を賞賛した書評があったが、私は精神科の診断記録ではないかと思い悩む。

(137回直木賞受賞)
「吉原手引草」 松井今朝子著 幻冬舎刊
 小説は引手茶屋桔梗屋内儀の延の冗舌から始まる。もっぱらしゃべらせる一見の客が誰かは、最後まで読まれると分かる。全文このようなインタビュー形式で、聞きたいのは舞鶴屋の売れっ妓花魁、葛城の失踪の謎。当然、聞かれる人間は番頭、幇間、芸者や馴染みの客など、出入りの船頭にも及ぶ。
 話の中で、葛城の生い立ちから成長の様子、さらに身請けをめぐる二人の旦那衆の駆け引きなどが面白い。最後に吉原では厳しい足抜きをいかに成功させたか・・・。
この本はロンゲセラーになりそうだ。
 「輪違屋糸里」浅田次郎著にも、京都島原輪違屋の芸妓糸里天神がいて、壬生浪士組土方歳三に淡い恋慕を抱くが、話はかなり血生臭い。

(53回江戸川乱歩賞受賞)
「沈底魚」 曽根圭介著 講談社刊
 沈底魚とは、静かに眠る中国の大物スパイ。この事件の暗号名はマクベス。
 現実には、ミサイル迎撃が出来る日本のイージス艦の機密が漏洩したと言われ、事件の解明と責任が問われているが、この本では何が重要な機密なのか今ひとつピンと来ない。
 主人公は語り手不破と何となくはっきりしない若林、それにベテランで過激な五味とそのグループが、同じ外事2課にいて、それぞれに中国国家安全部の動きをマークしていた。そこに30代後半の凸井美咲理事官が就任し、話は急激に緊迫してくる。
 この本には多くの人間が登場し、壮烈な情報合戦の挙句、何人かが死ぬハードなサスペンス仕立てだが、よく人間関係を抑えていないと、何がなんだか分からなくなり、最終章真相までたどり着けない。