(今月は鬼才と呼ばれる2人の新鋭若手作家の作品を紹介。面白いと思われるかばかばかしいと思われるか読者次第である)
「片眼の猿」 道尾秀介著 新潮社刊
私立探偵事務所「ファントム」のでかい耳を持つ三梨は、谷口楽器苅田部長の下で派遣社員として働いていた。目的はライバル社黒井楽器が谷口楽器のデザインを盗用し、不当な利益を得ているらしいという。その証拠を掴むことを依頼され、成功報酬は大金だ。三梨は予知能力をそなえ持った目を持つ夏川冬絵と知り合った。そういえば三梨には同居していた野村秋絵がいた。彼女は7年前、福島山中で謎の首吊り自殺していた。
三梨が張り込んでいた時、黒井楽器の村井がタバタという女に殺された。少しずつ分かってきたが、このタバタは冬絵の偽名らしい。冬絵はインチキ探偵社四菱エージェンシーの社員だった。三梨とは二重の契約となる。これは始めから計画されたことなのか。冬絵は秋絵とも関わりがあったらしい。それからファントム探偵社があるアパートの、癖がある住人も多数加わって、まるでマンガのような、お伽話のような展開になってくる。
最後に三梨の教訓と、悪の連鎖で全員がうまく収まり、あまりにもぴたりとパズルは完成する。
この読後感を一言で表せば「何もそこまで頑張ってまとめなくとも」といったところか。
「新釈 走れメロス」他4篇 森見登美彦著 祥伝社刊
この本は装丁に騙されて、かつての名作を著者が新しい視点で解釈を施したものと真面目に取ってはいけない。ただ単に名作のタイトルを借りたにすぎない。
<山月記>
京都山田にいたという孤高の学生、斉藤秀太郎は孤高ゆえに世の理解を得られず、山にこもり通行人に悪さをなすという。それではと、二人の巡査が捜査に行った大文字山で、斉藤と遭遇する。そして奇怪な現象ともんどり問答が展開する。詳しくは省略するが、日本の文学はこれで大丈夫なのかと、大いに危惧される。
<藪の中>にいたっては三人の男女が、ビルの屋上で、学生サークル活動として映画を製作、最後に思いがけなく虹がかかり、その下でキスシーンを収めると言う話。
<走れメロス>
秋の肌寒い学園祭の日に、芽野史朗と親友芹名雄一が属する詭弁論部が「図書館警察」の「自転車にこやか整理軍」によって、部室の開放を要求される。ごちゃごちゃと交渉があって、芽野の裸踊りでこれを許そうということになり、芽野はごめんこうむるとばかり逃げる。最後はあの感動的シーンになるはずだが、ますますとんでもない話になっていく。
若い頃の清水義範、高橋源一郎、圓丈落語もものかは、何たる冒涜、何たる荒唐無稽の話なのかあきれ返ってしまう。ほら、私にも変な口調が移ってしまったではないか。