「八月の路上に捨てる」  伊藤たかみ著  文藝春秋9月号
 8月下旬、佐藤敦と水城絵美は、自販機に飲物を補充する仕事を続けていた。敦は妻知恵子と離婚するつもりであった。絵美は事務系に転任することになり、職場を離れることになり、今日が最後の日になった。
 絵美は一日の仕事量を増やし、何が何でも6時までに終えようとする。そうしながら、敦の家庭の事情を聞きまくる。話は暗くくだくだと続く。一体何を8月の路上に捨てたのだろうか。
 選評に村上龍氏曰く、小説は「伝えたいこと」がなければ存在価値がないと。

「風に舞い上がるビニールシート」  森 絵都著  文藝春秋刊
 10年前、投資銀行からUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に転職した里佳は、東京事務所にいたエドと国際結婚。結婚して3年たつと、エドは現地に派遣され、里佳の悔やみが始まった。表題は難民キャンプで、どこまでも舞い飛ぶビニールシートの夢のこと。7年目の夏、里佳の精一杯のぬくもりが、久々に戻ったエドを追い詰める。そして離婚を決意した里佳のもとに届いたエドの死の訃報。
 実に特異性がある状況を、里佳の目を通して淡々と語られる。20代にして書かれたこの一編は、他の短編とともに、彼女の才能を伝える。

「まほろ駅前多田便利軒」
  三浦しをん著  文藝春秋刊

 まほろ市は町田市ではないかと言われている。
 多田啓介は便利屋として、それなり繁盛していた。冬だというのに裸足にサンダル姿の行天春彦に会い、彼の面倒を見ると、ついでに行天は事務所に居ついてしまった。ある日佐藤健太郎を名乗る婦人が、チワワを便利軒に預けて夜逃げしてしまった。わずかな情報を頼りに小田原くんだりの引越し先を捜し当て、娘のマリちゃんにチワワの新しい飼い主を探して、連絡するからと約束して帰る。この二人は何と気のいい人情家なんだ。
 それから始まる、さまざまな事件が展開していく。つづく・・・

 3編に共通しているのは離婚。直木賞の2編は「別冊文藝春秋」に連載されていたものの一編を切り取ったもの。野球で言えば文藝春秋シリーズの月刊MVPの受賞という感じである。