「ダーク・レディ(上・下)」 リチャード・ノース・パタースン著 東江一紀訳 新潮文庫
 語り手であり主役は、権力をものともせず、出世のためにも真実を追究するダーク・レディとあだ名された郡検察局殺人課課長ステラ・マーズ。彼女は二つの殺人事件を追っていた。一つはかつての同僚であり、恋人ジャック・ノヴァク麻薬取締専門弁護士の死。ジャックは女装し、吊されて死んでいた。もう一つはスティールド2000野球場を建設しているホール・デベロップメント役員トミー・フィルディング。彼の死体からは、大量の麻薬が検出され、一緒に死んでいたのはティナ・ウェルという黒人麻薬中毒の娼婦であった。これも変死体で自殺や事故死ではない。
 そう、すべてが麻薬がらみなのだ。この二つの事件を解決することで、何度も罪を免れたマフィアのヴィセント・モロを逮捕できれば、そう考えたステラは独自に活動を始める。しかしモロの手は、政治家・警察・弁護士にいたるまで深く浸透し、ステラは次々と困難にぶち当たる。それに黒人で現職の市長トマス・クラジェクと、ステラの上司アーサー・グラントとは市長選の真っ只中である。
 ここまで紹介すると、実に面白そうな小説じゃないかと思われるかもしれないが、ここまでが第一部であり、各所に情景の書き込みすぎが多く、下巻になってもくどいほどの繰り返しである。解説にはリーガル・サスペンス界の横綱と持ち上げている。
 ついでに愚痴れば、「週間新潮」のbook欄はページ数が少なすぎる。文芸週刊誌なのだから自社刊行物を含めても、倍増すべきだと思う。

「夏の名残の薔薇」 恩田陸著 文藝春秋刊
 プロローグは洒落た書き出しと、舞台劇を見るような展開。「三人の嘘つき女の一人を弔うことに」。
 三人の嘘つき女とは、沢渡家の伯母たち伊芽子、丹伽子、未州子。舞台は晩秋から冬に向かう高原のホテル。毎年伊芽子姉さんが親族を招いて開くパーティー会場。
 第一変奏は沢渡家の娘桜子の弟時光が語る。ところどころにゴチック体のト書きのような舞台ストーリーが挿入される。そして桜子が死んだように思わせる。第二変奏は丹伽子の娘で俳優の瑞穂の田所早紀マネージャーが語り、丹伽子が柱時計の下敷きになる。
 このように各章に、いろんな人間が出てきて、「真実か幻かわからない殺人事件」が語られる。そして唐突に次の年の冬になり、昨年の事件を語り継ぐという結末。本人の「あとがき」の後、長々と難解な解説が続き、恩田陸インタビューまでついてこの本は終わる。