「アイム ソーリー、ママ」 桐野夏生著 集英社刊
 普通なら第17回柴田錬三郎賞受賞作「残虐記」を読むべきだが、同じ作家の新刊が出たので、この本を紹介しよう。
 内田夫婦は結婚して20年目になる。特異なのは妻美佐江が67才、夫穂は42才と25才の年齢差があること。この夜二人は中華料理店に食事に出かけた。そこで働いていた店の子松島アイ子は40歳過ぎで、その昔美佐江がいた孤児施設「里の子」の園児だった。親切にも二人は住所を教えた。その夜遅くアイ子は内田家を訪ね、歓迎の表情を見せた美佐江に、ザバッと灯油を浴びせ火を放った。二人はあっという間に焼死してしまう。
 これはアイ子の初犯ではなかった。世話になった人、生まれ育った娼館の人間に、重ねられる犯行の数々。器量が悪く、のぺっとした態度のアイ子の生きる道は、殺人と略奪しかない。ヤバクなると姿をくらます。そして出生の秘密を知らされながら、行き場を失ったアイ子の結末は・・・。
 雑誌連載に加筆されたもので、各章の筆致にばらつきがあるものの、すさまじい内容ながら深刻にならず面白く読めた。

「報復」 ジリアン・ホフマン著 吉田利子訳 ソニーマガジンズ文庫
 この本の持っていき方が面白い。全国の書店員が熱狂したという。確かに帯の裏面には賛辞が寄せられている。ただし610ページもある大長編で、それなりの時間が必要である。
 1998年6月NY。セントジョーンズロースクールの学生、クローイ・ラーソンは、恋人と別れた後、待ち伏せしていた道化師のマスクをかぶった男に、子宮裂傷の暴行を受けた。ここまでが一人称を交えた三人称で語られるプロローグ。
 第2部は12年後の9月から始まる。フロリダ州の捜査官ドミニック・ファルコネッティは、11人の行方不明者の写真を前に腕組みしていた。すべてが18才〜25才の美人、中には惨殺された者もいた。事件はキュービッド事件と称された。そこに犯人逮捕のニュース。ウィリアム・バントリング(41)家具商が被疑者。
 クローイはC・J・タウンゼンドと名を変え、キュービッド事件捜査を支援する検察官になっていた。最初の審問において、叫んだバントリングの声を聞いてC・Jは「ジグザグのS字型の傷跡を見た。この声を私は知っている」衝撃を受け、動揺を隠しきれない。バントリングの家宅捜索の結果、証拠となる薬や道化師のマスクも見つかった。悩むC・J「どちらにしても決断しなくては」しかしいくつかの疑問がないわけではない。
 法廷で二人が接するうちに、C・Jは骨張って40過ぎの女に見えるが、バントリングは気付いた「初めてみる顔ではない」。そしてC・Jが彼の前を通り抜けたとき、彼女の香水ではっきりと思いだした・・・。