「壊れるもの」 福澤徹三著 幻冬舎
 この書き下ろし小説のすべては、カバーの写真がよく表現している。何ともいえぬ不思議な小説を紹介しよう。
 上場企業の大成百貨店の課長西川英雄は、郊外というより他県玖我山町一戸建てを購入。近所の人々との付き合いはないものの、この町の住人がどんどん減っていることに気付く。さらに丘の上では何か分からないが、大きな工事が行われているらしい。
 上場企業とはいえ会社は火の車、そのため西川はいやでも残業を繰り返し、仕事に没頭する毎日。妻陽子はもとより、一人娘の麻美(高一)にも疎んじられている。会社(百貨店)では、狡猾な者が生き残り、誹謗中傷の嵐が吹き荒れ、もうぐちゃぐちゃの状態。西川は生き残り闘争に敗れ、とんでもない出向を断って辞職する。
 それから西川家は、転落の一途で壊れていく。家庭内隔離という悲惨な状態にも慣れた英雄が丘の上で不思議な体験をした。廃屋「ドリームハウス」への回路を綴ってこの小説は終わる。

(奇妙といえば次のミステリーも)
「炎に消えた名画」 チャールズ・ウィルフォード著 浜野アキオ訳 扶桑社文庫
 「世界美術大百科」全24巻の一部を執筆したジェームズ・フィゲラス(35)は、それだけに名高い美術評論家の一人。特に重要な存在でありながら、作品が残っていないフランス人画家ジャック・ドゥビェリューについては彼しか書けない。そこに目を付けたのが美術収集家で、弁護士のジュゼフ・キャシディ。彼はジェームズに、ドゥビェリューの絵画を盗み出してでも手に入れるよう依頼する。画家は密かにフランスからフロリダに移り、毎日隠遁生活を送っているという。
 ジェームズはドゥビェリューを訪ね、取材の許可を得た。ここで著者の美術論が延々と続く。専門的で分かりにくく、本を投げ出そうかと思ううちに第一部が終わる。
 第二部で、ジェームズは恋人ベレニスと画家を訪問し、硬軟のインタビューの繰り返しで、何とか画家に取り入ることに成功する。それからジェームズがとった奇妙で、破廉恥な行動はお読みいただきたい。
 最後に滝本誠の長い解説があり、画家のドゥビェリューはヂュシャンがモデルではないかと推論し、この小説をアート・ノワールと名付けている。