(今回は秋にふさわしく、じっくりと最後まで読んでもらいたい、上・下ものの力作2点を紹介)
「荊の城(上・下)」 サラ・ウォーターズ著 中村有希訳 創元推理文庫
 物語は19世紀半ばのロンドンの下町サザーランド街に住む、あやしげな家族紹介から始まる。
 表向きは錠前屋で、故買屋のイップス親方。訳ありの赤ん坊を預かって売りさばくサクスビー夫人。そして夫人に何故かかわいがられる孤児のスーザン(スウ)(17)ほか。そこに詐欺師リチャード(あだ名は紳士)の登場。彼が持ってきた話はこうだ。
 マーロウ村のブライア城には、クリストファー老人と姪が住んでいて、彼女が結婚すれば相続による1万ポンドが転がり込むという。紳士が姪のモード(17)と結婚し、城から連れ出そうという計画。そのためにスウを侍女として城へ送り込み、2週間後に紳士が登場し、2人でモードを落とし、老人の手から奪い取ることに。城に上がったスウの複雑な心境、3人それぞれの秘密と、隠微な世界の表現は見事である。
 いったん紳士が城を去った後、作戦開始。スウは見事にモードを連れ出し、かねてから手配していた牧師の小屋で、リチャードとモードは結婚式を挙げる。
 ここで話し手が変わり、モードの生い立ちを織り込みながら「愛ゆえに――私はついにスウを欺くことにした」と言わせ、上巻が終わる。
 下巻に入り、環境の変化にやつれたモードの診察に医者が来て、入院させようと病院に着いたとき、とんでもない事が起きてしまう。それからさらにひねりが加わり、読者の頭の切換えが追いつかないほど。(後略) そして最後悩が描かれ、新たな運命と人生を匂わせてこの長編は終わる。

(本来なら雫井脩介著の新刊「犯人に告ぐ」双葉社を紹介すべきだが、あえて1年前に出た文庫本を紹介)
「虚貌(上・下)」 雫井脩介著 幻冬舎文庫
 岐阜県美濃加茂にある「加茂運商」の社長気良は、気むずかしく社員に厳しかった。しかし社員時山(25)、坂井田(22)、荒(31)は、配送の帰りの空荷に祭りの金魚を積んで帰り、香具師に届けるアルバイトをして小遣いを稼いでいた。3人の帰りが遅いことや、車内の汚れからばれ、即クビに。逆恨みした3人と見張り役の未成年の湯元(16)を含め、4人は気良邸を襲撃。火を放って気良夫妻を殺し、子ども2人に大火傷を負わせて逃げる。
 犯人たちは荒を主犯に仕立て、刑を軽くしてもらい服役して先に出所した。21年経って荒は出所した。姉の友人山田祐二を頼り訪ねていく。
 話は変わり、加茂病院に入院していた滝中守年刑事は末期がん患者、一応退院を許され現場に復帰した。その頃ヤク中の坂井田を荒が訪問、坂井田は復讐の鬼と化した荒にナイフで刺され死ぬ。最後の事件として追う滝中。そして時山も麻雀中に殺される。麻雀パイから荒の指紋が出たところで、上巻が終わる。
 下巻に移り様々な人物が入り乱れ、なお鮮烈な事実が浮かび上がり、タイトルの「虚貌」にいき当たる。さらに復讐劇は続き完了する。
 さてこの小説のトリックの奇抜さは是か非か、読者の判断を待ちたい。