「抑えがたい欲望」 キース・アブロウ著 高橋恭美子訳 文春文庫
ボストン・マサチューセッツ総合病院の精神科医フランク・クレヴェンジャーは、かつてミスを犯し反省を込めて禁酒中である。入院患者リリー(29)看護士は抗生物質の効かない難病と闘っていた。しかし彼女は自分で病気の原因の蛍光菌を注入していたという。心の病がリリーを難病に駆り立てていたのだ。この話はメインではなく、小説の中には時々出てくるが、暗示的な枕話に過ぎない。
本題は、旧友ノース・アンダースン(42)黒人警察署長がフランクに持ち込んだ、5カ月の子の殺人事件である。事件の内容は、ナンタケット島に住む大富豪ダーウィン・ビショップ(54)と二人目の美貌の妻ジュリア(35)との間に出来た双子の姉妹の一人ブルックがわずか5カ月で、鼻にシーリング材を詰め込まれた窒息によって殺された。一番の容疑者は、放火、動物虐待の経験があり、逃走中の養子の息子ビリー(16)である。ビショップ家には1才年上の別の養子ギャレットも同居。これまた完全な美貌のベビー・シッター、クレアが残った双子の一人テスの面倒を見ていた。このやや変な関係のビショップ一家の中に殺人犯がいるのは間違いない。さあこの謎にフランク・グレヴェンジャーはいかに挑むのか。
フランクはジュリアに会ったときから、その境遇と美貌に「抑えがたい欲望」が高まって、ついに思いがかなった深夜、何者かに襲われ重傷を受ける。ここまでが前半で、後半は一気に話が進むが、もう一人フランクより「抑えがたい欲望」を抱いていたものがいたという結末。
解説にあるように「やるせない心理サスペンス」を是非味わって欲しい。