「殺人の代償」 ハリィ・ホイッティントン著 佐藤耕二訳 扶桑社ミステリー文庫
 この著者は”ペーパーバックの王者”と称されたが、90年に死去している。この傑作を扶桑社が翻訳出版したのは立派である。あらすじを紹介しよう。
 疎遠になったとはいえ、妻コーラが父から受け継いだ遺産は50万ドル(作品が古いので今に直すと大金)。おかげでチャーリー・ブラウァー弁護士は、仕事で得られる所得以上に、皮肉混じりの会話と共に裕福に暮らしていた。
 新しく雇った秘書ローラは、最初こそそれほどではなかったが、チャーリーには秘めた魅力が徐々に感じられ、そのうち彼女無しでは仕事も手に付かないほどに高揚していった。二人の仲は深まり、思惑はだんだん露骨にエスカレートしていった。そして妻殺しの大作戦がスタートする。何様チャーリーは弁護士だ。失敗は絶対に許されない。周到な計画と準備を開始。
 その計画を教えるわけにはいかないが、あて馬に利用した妖艶なビクトリア・ヘインズが甘くなかった。げに女は怖い。「殺人の代償」はいかに、ややコミカルな結末に注目。

(遺産の額では負けないぞ、というのが次の作品)

「汚れた遺産」 ジェイムズ・グリッパンド著 白石朗訳 小学館文庫
 この本は660ページもあり、二つの話を交互に進める凝った手法。余計なことだがこの文庫は18行あり、分厚いので開いたときに綴じ込み部分が読みづらい。
 コロラド南部の法律事務所で働くシングルマザー、エイミー・バーケンズとピードモントのスプリングスの町でただ一人の医者ライアン・ダフィの二人の主人公の話である。紙の真ん中に線をを引いて、登場人物を分けて記録したほうがいいし、それぞれが接触しだすと、何が何だか分からなくなりそうで、こまめにメモされることをお奨めしたい。それでは小説の半分ほどを紹介するにとどめよう。
 エイミーの元に突然20万ドルが送られてきた。身に覚えがなく警察に届ければ、当然この小説はないのだが、エイミーと祖母は金を手元に置いとくうちに、金への執着心と一体誰がという好奇心に勝てず、少しずつ探りを入れていく。
 一方ライアンの父フランクは死に際に、屋根裏部屋に恐喝で得た200万ドルを隠していると言い残して死ぬ。とまどうライアン、母は何も知らないと言う。姉セーラに話したのが間違いのもと、セーラのならず者の夫はライアンを脅しまくり、離婚調停中の妻リズも交えて金の亡者の醜い争いとなる。ライアンもこの金の出所を探るべく活動を開始するのだが、話は法律的な問題や、FBIまで絡んでややこしくてしょうがない。
 エイミーは自分に送られた金がフランク・ダフィからと突きとめる。そしてライアンに会いに行くことにした。
 ここまで来るのに200ページを費やし、さらに二人の間で暗躍する謎の男女二人組みも現れて、この小説には相当気長な辛抱が必要だと分かる。その結果、真実はーーーー。