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斜読玩味

~~S・リード氏のちょっと辛口書評帖~~

                      
書名 著者名 出版社 日付
「日の名残り」 カズオ・イシグロ/著 
土屋政雄/訳
早川書房
(初版は中央公論社刊)
11/6
「鏡の迷宮」 E・O・キロヴイッツ著 
越前敏弥訳
集英社文庫  
「遠縁の女」 青山文平著  文藝春秋刊 8/28
「月の満ち欠け」 佐藤正午著 岩波書店刊
第157回直木三十五賞受賞作
「影裏」 沼田真佑著 文藝春秋
157回芥川賞受賞作
「紙片は告発する」 D・M・ディヴァイン著 
中村有希訳
創元推理文庫 7/3
「服従」 ミシェル・ウエルベック著 
大塚桃訳
河出文庫  
「真紅のマエストラ」 L・S・ヒルトン著 
奥村章子訳
ハヤカワ文庫 4/13
「拾った女」 チャールズ・ウィルフォード著
浜野アキオ訳
扶桑社ミステリー文庫
(本屋大賞ノミネート作品)
「桜風堂ものがたり」
村山早紀著 PHP研究所刊
「傷だらけのカミーユ」 ピエール・ルメートル著
橘明美訳
文春文庫 2/21
「30の神品」ショートショート傑作選 江坂遊選 扶桑社文庫
「しんせかい」 山下澄人著 文藝春秋3月号 
第156回芥川賞受賞作
「消滅世界」 村田沙耶香著 河出書房新社刊 12/24
「転落の街 上・下」 マイクル・コナリー著 
吉沢嘉通訳
講談社文庫
「古書贋作師」 ブラッド・フォード・モロー著 
谷泰子訳
創元推理文庫 11/7
「あたらしい名前」 ヴァイオレット・ブラワヨ著 
谷崎由依訳
早川書房刊

*書名をクリックしたら、内容にいきます。

「日の名残り」カズオ・イシグロ著 土屋政雄訳 早川書房(初版は中央公論社刊)
 平成2年(1990年)「新風」会報誌に掲載HPには未掲載と思われるので載せてもらうことに。
著者カズオ・イシグロは一九五四年生まれの日本人。海洋学者の父と共に英国在住。
若いうちから英国の文学賞をつぎつぎと受賞この作品も八九年ブッカー賞を受賞した。
 小説の主な舞台は、イギリスのとある名門屋敷ダーリントンホール。主人公は親子二代ダーリントン卿に使え、父親が亡くなり、ダーリントン卿も 亡くなった後、フィラディ様に使える優秀で誠実な執事スティーブンス。
そのスティーブンスが、生まれて初めて、ご主人に一週間の休暇を許され、以前同じく勤めていたミス・ケントンを尋ねる。その時の旅行記及びその都度 思い出されたことをご主人へ手紙形式で実に丁寧な文章でつづられる。
時は第一次大戦一九二〇年代。
 一日目は父の思い出。高齢になった父が、突然足を取られて執務中に転んでしまう。その日の情景は、「開いた各寝室の戸口から、夕焼けの最後の光がオレンジ色の束に なって廊下へ流れ出している様は、いまでも鮮やかに思い出すことができます」。日の名残りの中を転んだことが信じられない父が何度も何度も石段を上下し、 石のデコボコを「まるで落とした宝石でも探しているかのように」地面を見据えていた、という表現には並々ならぬ文学作家のセンスを感じた。
 三日目はお互いに一生懸命務めているのに、張りつめた気の強さの為に言葉のイサカイは絶えない、しかし淡々として好感のもてる、ほのかな愛情をいだいたミス・ケントンとの想い出。
 四日目いよいよリトル・コンプトンに到着。ミス・ケントンにもあえて二十年前の記憶を交えながら、初めて彼は自分の言葉で話が出来る。同時にダーリントン卿が多くの人に誤解され利用され、 不幸な処遇に苦しんでいたことも知る。
 そして六日目。スティーブンは失意の中に亡くなったダーリントン卿を偲んで、正に日の名残りの夕日に向かって涙する。突然感情を打ち切る様に 「桟橋の明かりがつきましたとき、私はベンチにすわったまま後ろを向き、そこで笑い合いしゃべり合っている群衆をしばらく観察いたしました」
実にすばらしい落ち着いた文学作品の終章。ぜひ読んでいただきたい。
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「鏡の迷宮」E・O・キロヴイッツ著 越前敏弥訳 集英社文
 前回紹介した「月の満ち欠け」もルリと名乗る女性が、世代を超えて活躍した小説を紹介したが、
 今回もやや手が込んだ、一つの事件を3つの話にして、それを結びつけるもの。
《第1部ピーター・カッツ》
 文芸エージェント、ピーターが探すのは、リチャード・フリンが1980年代の事件を題材にして書いた「鏡の書」。リチャードは学生の頃から作家を目指していたが、なかなか売れなかった。 彼のアパートにローラ・ベインズが来て、シェアすることになった。同じ大学に通うリチャードはジョーゼフ・ウィーダー教授の頼みで、教授の蔵書を整理することになった。 12月初旬にウィーダー教授が何者かに殺害された。
そのことをモチーフにして書いたラフ原稿が、ピーターの目に留まり、さらにその後の完成された原稿を送るように指示していたのだが、それっきりフリンへの連絡はつかず、ことは思うように運ばない。
《2部ジョン・ケラージ》
ジョンはピーター・カッツから依頼を受け、原稿探しに乗り出す。語り手はジョンに交代する。手がかりは、フリンの経歴と最後の恋人ダナ。ロラ・ベインズのその後、さらに事件の警察の調書などである。
最後に事件を担当した刑事も加わり、第3部ロイ・フリーマンが語りだす。その都度登場人物が増え、とても1台のバスには乗りきれない。
秋の夜長とはいえ、この迷宮に読者の皆さんは耐えられるだろうか
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「遠縁の女」青山文平著 文藝春秋刊
 気になるヌードの表紙で話題になったが、今は置いている書店が少なくなっているはずだ。 是非常備して欲しい1冊。
<機織る武家>
 平和が続く時代、武家社会は経済的に厳しく、何かと生き延びる道を探らねばならない。かつて百石の武井家に婿入りした由人は、30代半ばで20俵二人扶持。 武生川の氾濫ですべてが流され、禄も10俵に落ち貧した。
 妻縫(24)は、その名の通り機織りが出来る。家で地機を織り、仕上がった反物は評判がよくかなりの稼ぎとなった。 しかしさらに上手の織り手、幾が登場し、縫は再び窮地に落ちる。最後にもらした縫の言葉が面白い。
(一つ飛ばして表題作)
<遠縁の女>
 剣道と学問に秀でた片倉隆明は、23歳になった年、父達三から武者修行に出るように言われる。この平和な時代に何故の疑問が残るが、5年間の武者修行に出る。
 5年が経過した初夏の候、新たな修行者沢村松之助(22)が現われる。松之助は言う「稽古ではなく、仕合をしませんか」その誘いは死をも意味する果し合いに近い。 覚悟をした隆明のもとに父急逝の報が入る。急ぎ国へ戻ると、父の埋葬は済んでいた。叔父が語る、5年前からの話とは。
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「月の満ち欠け」第157回 直木三十五賞受賞作 佐藤正午著 岩波書店刊
 東京ステーションHに、小山内と三角に会いたいという母娘連れが待っていた。娘の名はるりという。 母娘連れは八戸から風呂敷包みを持参し、15年ぶりの再会なのだが、三角は遅れている。これが序章である。
 小山内は、八戸生まれの梢と結婚し、娘瑠璃が生まれる。今は稲毛に住み、会社まで通勤に50分もかかる。 瑠璃が7才になったとき、何かに取りつかれたような異変が起きる。 18才になった瑠璃と妻は交通事故で死んでしまう。「えっ」この話はどうなるんだと思っていると、序に戻り今度は三角が語る長い話が始まる。 その中に出てくる人妻が正木瑠璃(27)という。
 このようにルリの継承をめぐるうちに本は半ばまで進んでしまう。変わった手法で、やや複雑ながら面白い小説だ。本屋大賞をねらって欲しい。
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「影裏」沼田真佑著 157回芥川賞受賞作 文藝春秋
 岩手の生出川沿いの土手には立派なミズナラの並木が続く。そこで釣りをする主人公今野。小説は1年前に知り合った友人日浅と、渓流釣りの話である。
 2月に日浅は退職した。4月には2人で釣ったウグイの思い出を入れ、9月半ば日浅は今野に「互助会に1口入ってくれ」と懇願。その時は感じなかったが、 日浅はかなり追い込まれていたようだ。さらに日浅は釣りに出て津波に呑まれたかもしれないという。
 本人は受賞はまぐれみたいなこと言っているが、文章の底にキラリとしたものを感じる。
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「紙片は告発する」D・M・ディヴァイン著 中村有希訳 創元推理文庫
 多くの登場人物が、一気にスコットランドのキルクランの町議会に集結し、殺人犯人を追いつめていく。いかにも英国ミステリの典型のような作品。
 11月の寒い朝、町議会議員エルダーの娘ルースは、書記官ジョフリー・ローリングス(48)の部屋で紙片を拾った。紙片は焼け焦げており、 焼却しようとして燃え残ったもののようだ。ルースはその夜殺されてしまった。
 この後の主役はジェニファ・エインズレイ(31)。一人称の語り手になる。その他の主な登場人物は、彼女の上司モールズ・ワース女史(48)。収入役エドワード、長老議員マグワイア、 3人の副書記官。ルースの姉の元彼クリス・ヘミングスがいて、当然彼は捜査に加わっている。何とジェニファはジョフリーと親密で、不倫の仲である。
 小さな町の殺人事件に、町長選出に権力闘争も交えて大わらわである。そこに札付きの建設業者フランシス・トムソン(47)も絡んできたが、 フランシスは不慮の死を遂げ、謎はますます深まってきた。
 いったい誰が犯人なのか、二つの事件の関連は、紙片には何が書かれそんなに重要なメモだったのか。 警察は容疑者としてジョフリーを逮捕した。読者の皆さんも謎解きを愉しんで欲しい。
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「服従」ミシェル・ウエルベック著 大塚桃訳 河出文庫
 都議選の結果のように、政治にはあのような極端な流れが生まれるものだと驚かされた。
 この本はフランスの近・現代文学を解説したかと思えば、語り手の大学教授のぼくは女子学生に次々と手を出してしまらない。
しかし、フランス全体の流れを捉え、近未来の大統領選挙を見事に予想している。
 実際にはマクロン大統領が誕生し、中道新党の共和国前進が過半数を取り、極右のマリーヌ・ルペンを大差で退けた。 小説では、テロと移民にあえぐフランスの治安が最悪になり、ぼくは彼女と別れパリを後にする。
 これほどややこしい小説「服従」は単行本で出たとき、やや高額であったにもかかわらず、読者の注目を集め、一時ベストセラーになった。 ここに文庫として刊行された。難しい理屈はさておき、ざっと通読されてはいかがだろう。
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「真紅のマエストラ」L・S・ヒルトン著 奥村章子訳 ハヤカワ文庫
 この本のプロローグは卑猥で淫靡なのだが、全体そのとおりである。
 私ジュディス・ラシュリー(又はローレン)は、ロンドンの画商に勤めていた。彼女は絵の知識や鑑識眼は優れたものを持っているものの、走り使いの雑用ばかりで鬱屈していた。 同郷のリアン(又はメルセデス)の勧めで「ダシュータードクラブ」でも働き始める。 これがジュディスには大きな転機になる。夜ごとクラブで金を使う客は後をたたず、彼女の生活も華美なものになっていく。
 昼の仕事では、ジョージ・スタブズが描いた絵がオークションにかけられようとするが、彼女にはこの絵は贋作に見えてしょうがない。 会社に潜入して探りを入れようとしたとき、レパート部長に見つかり即刻クビを言い渡される。夜の仕事では、大雨の日にデブついた男の客ジェイムズについた。 彼女はヤケ酒ついでに、ジェイムズと南フランス旅行に行くことにした。友人メルセデスと共に。
 二人は散々楽しみ、夜の対策としてジェイムズには薬を飲ませて眠らせることに。しかし薬の量が多過ぎたのだ。 驚いた二人は遺体をそのままに逃げることにした。メルセデスは帰国させ、自分はイタリアへ。こんなにうまくはいかないだろうが、小説は自由だ。 これからジュディスは巧妙に男という波を乗り続けていく。美人作家が仕込んだ見事な手口に読者は呆れかえることだろう。面白い本だ。
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「拾った女」チャールズ・ウィルフォード著 浜野アキオ訳 扶桑社ミステリー文庫
 この本は決して新しくはない、読み継がれて人気上昇。何が面白いのだろう。
 ロサンゼルスの閉店間近のカフェに150cm位の小柄な女が入ってきた。美人だがかなり酔っぱらってバッグがないと途方に暮れていた。 俺カフェの店員ハリー・ジョーダンはとりあえずホテルに連れて行き泊めてやる。俺は下宿に戻り彼女を受け入れられるように大掃除を始める。 彼女はヘレン・メレディスと名乗り、アル中で既婚者だった。とにかく旅に出てこの町に流れ着いたという。俺は一緒に住むことにした。そんなうまい話があるかと思われるが、これも小説だ。
 その後二人は、金はないが楽しい毎日を過ごす。ヘレンは極端なアル中のため一人で置いておけない。これではハリーは働くことができない。 当然生活資金は底をつき、二人はそれぞれ手首を切り自殺を計るが失敗する。それから二人は新たな生きる道を模索する。
 ここまでがまだ1/3。一体どうなるんだと思われるが、最後に小さな返しがあり、小説は重く閉じられる。
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(本屋大賞ノミネート作品)「桜風堂ものがたり」村山早紀著 PHP研究所刊
 月原一整は桜野町にあるという桜風堂の主人を訪ね、そのまま店をまかされる。それから再建に向かって奮闘するという話。 本屋にゆかりのある人には詳しい内容が面白かろうと思われるが、残り1/4位になると、ほっこりした話にまとまり結構いい小説だと解る。
 書店や読者の皆さん、この本を応援して下さい。
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「傷だらけのカミーユ」ピエール・ルメートル著 橘明美訳 文春文庫
 ルメートルが立て続けに出した三部作の完結編。面白くないはずはないのだが、やや趣きが違う。主役のカミーユ・ヴェルーヴェンは140センチの身長で50歳すぎのハゲ頭のさえない刑事なのだ。 しかも思いを寄せる彼女は40歳過ぎの輝ける美貌のアンヌ・フォレスティエ。
 アンヌは<パサージュ・モニカ>で、宝石強盗の一味と鉢合わせする。ショットガンを持った男はアンヌを打ち付け失神させ、そのまま引きずって宝石店に押し入る。 後に監視カメラに一部始終が写っていた。何とアンヌはふらふらと立ち上がって逃げようとしていた。そこで撃たれたが一命は取りとめたという。例によって何とも激しいスタートである。
 小説はあえて細かい時系列になっていて、10時に始まった犯行は40分後には新たな展開を迎える。強盗を影で操る主犯のオレは14時42分、コーヒーを飲みながら噂話を愉しむ。 このときは犯人の一人称の語りとなる。アンヌが生きて病院に収容されたことを知り、女を殺しに行くべきだと悟る。同時に事件を担当するカミーユも病院に向かう。ここまでが18時すぎである。
 もちろんこの後も延々と続くのだが、詳しくは書けない。3日目の事件解決までのカミーユの活躍を味わって欲しい。
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「30の神品」ショートショート傑作選江坂遊選 扶桑社文庫 
 この本はタイトル通り一昔前から語り継がれているショートショートを星新一の弟子と称する江坂氏が世界からかき集めたものである。 とびとびで申し訳ないが少し紹介したい。
<クミン村の賢人>アルフレッド・ヒッチコック
 古い家の今にも落ちそうなシャンデリアの下で悠然とするチャン村長の武勇伝。オーソドドックスなスタートである。
<おーい でてこーい>星新一
O・ヘンリ<賢者の贈りもの>と並ぶ超有名作品。突然できた穴にありとあらゆる地球の汚物を放り込んで、ある日青空から聞こえた第一声は何だったかと思い出す懐かしい話。
<冬休みにあった人>岸田今日子の話も面白い。江坂氏は<かげ草>で、かげ草という植物の特殊な生態による気持ちの悪い話を書いている。
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「しんせかい」山下澄人著 文藝春秋3月号 第156回芥川賞受賞作
 この小説は著者が富良野にある俳優養成所で過ごした2年間の経験を書いたものである。 それだけに登場人物が多く、それぞれに愛称をつけて呼び合う。そのつけ方が面白いと選評に書いてあったがどうでもいい話だ。
 入所式では先生(50)が一期生の歓迎の劇が面白くないと怒り出すところから本格的な養成所の活動が始まる。本来の勉強のほかに、農作業や馬の世話もこなす。 しかし俳優を目指す生徒たちが台本の読み方を知らなかったということがあり得ようか。厳しい冬が明けて、一期生が卒業式を終え巣立って行く。何とも物足りない小説だ。
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「消滅世界」村田沙耶香著 河出書房新社刊
 コンビニをテーマにした異色の「コンビニ人間」から、芥川賞受賞後の1冊。近未来の日常を描いている。その世界は、子供は人工授精によって生まれることになっていて、 男女の交わりによるのは珍しく、ルール外の子は「いじめ」の対称になる。これが人類の進化と言うものらしい。
 しかし、その他の部分の変化については何も語られない。すなわちセックスレスこそが未来の象徴という訳だが、そんなことはないはずだ。小説は飛んでまとまりがない。 何とか100ページまで辛抱して読んだが挫折した。
 たまたま新聞に、人口問題研究所が2015年に調査した結果を発表「異性との性交経験のない未婚者の割合が18~34歳の男性42.0%、女性44.2%と増加した」という記事が出てはいたが。
 ついで紹介で申し訳ないが「罪の声」塩田武士著、講談社刊が面白い。グリコ・森永事件をヒントにこの小説を思いついたようだが、部厚い本の割には読みやすい。
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「転落の街 上・下」マイクル・コナリー著 吉沢嘉通訳 講談社文庫
 米国の未解決殺人事件は1万件を超えると言われる。ロス市警の遊軍となり、4年間の定年が延長されたハリー・ボッシュとパートナーのディヴッド・チューに 再調査を要望された事件は、1989年、リリー・プライス(19)を性的暴力で殺したクレイトン・s・ペル容疑者の件。最新のテクノロジーによって、現場に残ったDNAが彼のと一致したもの。 しかしその当時ペルは8歳だったのだ。
 捜査に乗り出そうとしたとき、キズミン・ライダー警部補に呼び出され、新たな事件に取り組んで欲しいと要望された。元ロス市警にもいた市議アーヴィングの息子ジョージ・トーマス・アーヴィング(46)が ホテルのバルコニーから転落死したのは、事件か事故か調べて欲しいという、ボッシュを名指しの要望であった。
 ボッシュはまず遺体の検分と、ホテルの状況と転落した時の目撃者捜しに乗り出す。アーヴィングJrはかなりウィスキーを飲んでおり、背中には三日月状の傷が残っていた。 ホテルチェクイン時に並んだ別の客の証言や、遠く離れた家から目撃された非常階段を降りる人影など、かなり詳細に調査されていく。
 いままでのボッシュシリーズとしては、細かすぎはしないか気になるし、下巻に入っても大きな展開がない。しかし80ページを超える頃からアーヴィング事件は急転直下解決した。 その底にあるものをあぶりだしながら。
 そして未解決事件に戻り、タウンハウスの所有者チルトン・ハーディ・シニアを訪ねて行く。ペルと20年間一緒だったジュニァは留守で、チルトンは息子に全然合っていないと言う。 これから一瞬のひらめきと展開によって、おぞましい事件の解決が一気に始まる。
 この小説の原題は「The Drop」。さまざまな事件や人が転落したのである。
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「古書贋作師」ブラッド・フォード・モロー著 谷泰子訳 創元推理文庫
 この本に出てくる「古書贋作師」とは、どんな詐欺を仕掛けるのでしょうか。例えばコナンドイルの原本や書簡集などに、著者に似せたサインをし古書価格を吊り上げる。 または大胆にも全文をそれらしい原稿用紙に書き写し、サインをし、贋作本を作り上げる。それを古書店に高く買ってもらうという手口である。
 小説の中の事件は、モントークハイウェーの南側の一室で起こった。被害者アダム・ディールは、両手を切断された無残な殺され方だった。部屋中に直筆の手紙・古文書がずたずたに破られ散乱していた。 彼は贋作者として名を馳せていた。
 その友人でもあった、主人公で語り手ウィルにも捜査の手が及び、ウィルの作品にも嫌疑がかかるが、証拠不十分で釈放された。 ウィルは30代後半のアダムの妹ミーガンのプライドを傷つけ喧嘩となるが、逆に仲を深めた。ある日、郵便で脅迫状が届く、「必ずやおまえの正体は暴かれる・・・」差出人の名前はなかった。 これが破滅への前触れになるのだろうか。
 これから、アダム殺人事件の犯人探しと、ミーガンとウィルの親密とは言えないような新婚生活、時折届く脅迫状と落ち着かない日々が続く。作中で紹介される稀覯本も興味がある読者、あるいは書店人には面白いことだろう。後半の4分の1くらいから緊張する展開が始まり、最後はかなり血なまぐさく終わる。
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「あたらしい名前」ヴァイオレット・ブラワヨ著 谷崎由依訳 早川書房刊
 ジンバブエは南ア共和国の北に位置し、ビクトリア瀑布の上流でもありバンジージャンプは有名だが、これと言った産業がなく貧困にあえいでいる。
 絶えず続く超インフレのため、通貨を何度も切下げても紙幣やコインが不足し、むしろ南アのランドや米ドルが信用できる貨幣になっている。出国の際に、残った貨幣はすべて寄付してくれと、 大きなボックスが置かれている。
 さあそこに住む子供たちの生活描写から小説は始まる。語り手は私(ダーリン)、友人は11才で妊娠しているチボ、美人のシボ(9)、スティーナ、男の子はゴッドノウズ、バスタードなど。 彼らは遊びに飽きては、他人の家のグァバを盗んで食う。食べ過ぎると種が腸にたまり、重症の便秘になり、肛門が裂けることもあるという。
 彼らは大人の世界を観察し、ダーリンが話をまとめていく。<国盗りゲーム>では、国の開発は中国人と黒人が関わっている。小説全体に差別的言葉が多いが目をつぶって欲しい。 たまにNGOのトラックが来て、白人が子供たちにプレゼントを配り、カメラでその姿を撮りまくる。
 <デトロイド・ミシガン>後半はアメリカにいる伯母を頼って留学した私(ダーリン)の話に変わる。私はワシントンアカデミーに通うが、言葉は通じず黒人でもありいじめに遭う。 <いかに彼らは暮らしたか>で、人生と小説の結論を描き、心に沁みる良い本に仕上がっている。刺激の強い表現もあるが、一読をお奨めしたい
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